アンディ・ウォーホルの版画作品がいま売れている理由
アンディ・ウォーホルはアートの歴史を変えた人物です。
ウォーホル以前には、高尚なアートと大衆的なカルチャーとは厳しく区別されていました。
しかし商業イラストレーターからキャリアをスタートさせたウォーホルは、アートの世界に参入してからもポップカルチャーへの親しみを忘れず、セレブへの憧れや消費の快楽など大衆の欲望に寄り添い続けました。
その功績は、多くの人が所有できる大量の版画作品として、今もなお市場で引っ張りだこです。
2023年、アンディ・ウォーホルの版画の販売数量は史上最大となりました。
シリーズもののコンプリート・セットが高額売買されている
アンディ・ウォーホルは存命中、非常に精力的に活動したアーティストで、膨大な版画作品が生み出されました。
中でも人気が高いのは、シリーズもののコンプリート・セットです。
ウォーホルの版画シリーズは、《ムーンウォーク》シリーズのような2枚組から、《ゲーテ》シリーズのような4枚組、そして《マリリン・モンロー》、《絶滅危惧種》、《キャンベル・スープ》シリーズのような10枚組まで多岐にわたります。
すべてがそろったコンプリート・セットは、バラバラのものよりも1枚あたりの価格が高額になります。
また、そのセットの中にエディション・ナンバーが同じものが入っていたり、あるいは特別なプルーフがあったりすれば、さらに評価は高くなります。
2022年5月のサザビーズ・オークションではエディション・ナンバーの揃った《マリリン・モンロー》のコンプリート・セットが7億円以上の価格をつけました。
この価格は《マリリン・モンロー》が非常に人気の作品であることと、エディション・ナンバーの揃ったセットの希少価値が高いことから説明がつきます。
2枚組の《ムーンウォーク》セットも、2023年10月に1億円近い値をつけています。
エディション・ナンバーの入らない試し刷りのプルーフも需要が高い
版画の中でもプルーフと呼ばれる特別な版は、普及版よりも希少価値があって高価になります。
プルーフには、トライアル・プルーフ(TP)、アーティスト・プルーフ(AP)、オール・ド・コマース(HC)、プリンターズ・プルーフ(PP)、エキシビション・プルーフ(EP)などの種類があります。
トライアル・プルーフ(TP)とは、アーティストが版を確定する前の試し刷りです。 これらはしばしばユニークな色を持ち、レアな版としてマニアに人気があります。
アーティスト・プルーフ(AP)とは、エディション・ナンバーを持つ最終盤を刷る前に、作家が品質を評価し、必要な調整を行うために刷るものです。最終版に近い品質を持ちます。
オール・ド・コマース(HC)とは、フランス語で「非売品」を意味します。作家または出版社のための版です。 贈答用、宣伝用、保存用として使用されます。
プリンターズ・プルーフ(PP)とは、印刷所などで参照用コピーとして使われるものです。しばしば本編とは異なるカラーバリエーションを持っています。
エキシビション・プルーフ(EP)とは、明確に販促用として制作されるものです。ギャラリー、美術館、その他の展示会での展示のために使われます。
不況下でウォーホルの版画作品の人気が高くなる理由
イギリスのアート市場において、アンディ・ウォーホルの版画は2019年に販売量、売上高ともに過去最高を記録しました。
その後、コロナ下の2020年と2021年は販売量と売上高ともに減少しましたが、2022年は価格が高騰し、再び過去最高の売上高を記録しました。
この勢いは2023年も続き、販売量は前年比53%増、売上高は23%増と記録を更新しました。
2024年からアート市場は一時的に不景気となり、高額商品があまり売れなくなっていますが、アンディ・ウォーホルの版画は比較的リーズナブルな価格帯であるために、販売量は減少していません。
なかでもトライアル・プルーフのようなユニークなカラープリントの人気が高まっています。
2023年10月には、サザビーズ・オークションで《スーパーマン》のトライアル・プルーフが1億円弱の価格で落札されました。エディション・ナンバーのついている本刷りの《スーパーマン》はその半額以下で売買されていますから、特別な作品として扱われたことがわかります。
版画のようにエディション化された複製作品は、オリジナル作品が高額すぎて手に入らない方たちに、より入手しやすい選択肢を提供しています。
厳しい経済状況が続く現在の市場において版画作品は底堅いニーズがあるため値が崩れません。 アンディ・ウォーホルの人気が持続しているのも、このような市場環境の変化を背景としているのでしょう。