キース・ヘリングの版画作品はなぜ人気があるのか?

キース・ヘリングは近年の再評価が著しいアーティストの一人です。

1990年に亡くなってから35年を経たキース・ヘリングは、美術史的な評価も確立されて大きな値崩れがないと見なされるようになったからです。


オリジナルの新作が発表されることもなくなりましたが、その代わりに生前に作られた多くの版画作品がキース・ヘリングの市場での影響力を保持しています。


生前のキース・ヘリングは、若いファンのために廉価な版画や雑貨の製造に積極的でした。

死後35年が経ち、それらの価格が徐々に上がっています。

キース・ヘリングの版画作品の平均販売価格推移 2017 – 2023 © MyArtBroker 2024


キース・ヘリングの版画の価格が上がっている


キース・ヘリングの版画は現在のアート市場で高い人気を誇り、その価値は上昇を続けています。


たとえば、《Growing1》(1988年)は、2020年にサザビーズにて手数料込み約500万円で落札されて、当時のこの版画のオークション記録となりました。


しかし2022年にはボナムズ・オークションにて約1500万円で落札され、わずか2年で3倍になるという驚異的な価格で記録を更新しました。


現在、キース・ヘリングの《Growing》シリーズは、市場で最も人気のある作品のひとつとなっています。

キース・ヘリング《Growing 1》(1988年)


キース・ヘリングとアンディ・ウォーホルのコラボレーション?


キース・ヘリングの版画作品の価格上昇の顕著な例として、アンディ・ウォーホルへのオマージュである「アンディ・マウス」のシリーズがあげられます。


この版画のコンプリート・セットはわずか30部しか制作されなかったために希少価値が高く、アンディ・ウォーホルの人気もあって、状態のよいものが2億円近い価格で落札されたこともあります。


セットではない個々の版画は過去5年間に3回しかオークションに出品されなかったため、その落札価格も5000万円近くに上がったことがありました。

キース・ヘリング《Andy Mouse》4枚組(1986年)


キース・ヘリングのポップ・ショップは入手しやすいのに人気


キース・ヘリングの版画作品の中で最も流通しているのは《Pop Shop》のシリーズでしょう。

《Pop Shop》シリーズはⅠからⅥまでの6つの種類があり、それぞれがさらにⅠからⅣまでの4つのプレートで構成されています。つまり《Pop Shop》シリーズには合計で24枚の版画があります。


《Pop Shop》シリーズのサイン入りのコンプリート・セットは、それぞれが1000万円以上で落札されたことがあります。


このシリーズはとても人気が高かったために、4つのプレートを合わせて1枚の版画にした《Pop Shop Quad》も制作されています。

《Pop Shop Quad》は、1枚の版画に4つの絵が並んでいて廉価版のイメージが強いため、やや市場評価は低くなっていますが、それでも2023年のサザビーズでは1000万円を超える価格がつきました。


キース・ヘリングの《Pop Shop》シリーズは、市場流通量が多いのに価値が上昇している珍しい事例です。

キース・ヘリング《Pop Shop V, Plate II》(1989年)


売買のときはエディション・サイズが価格の基準になる


キース・ヘリングの版画作品の価格を左右するのはエディションのサイズです。

彼は1980年代初頭から版画制作を始めましたが、30部という極小部数のエディション・サイズで作ることもあれば、シリーズによっては200部以上を刷ることもありました。


アンディ・ウォーホルを引用したユニークな作品である《Andy Mouse》は30部で、キース・ヘリングの王道ともいえる《Pop Shop》シリーズは200部のエディション・サイズとなっています。


キース・ヘリングが亡くなった年に制作された《Icons》は、彼の代表的なアイコンである「Radiant Baby(輝く赤ちゃん)」や「Barking Dog(吠える犬)」が含まれているもので、250部も作られました。


キース・ヘリングは、人気の高いシリーズの場合、より多くの人の手にわたることができるように刷り部数を多くしたのです。これは、多くの人にアートを楽しんでもらいたいという彼の哲学を反映しています。

キース・ヘリング《Icons》5枚組(1990年)


版画に手書きのサインがあれば価格が高くなる?


キース・ヘリングのサインの有無も版画の価格を左右します。

通常、ヘリングの版画作品には右下に筆記体で「K. Haring」のサインと制作年とエディション・ナンバーが入っています。


しかし、キース・ヘリングの死後に制作されたものの場合、ヘリングの遺産管理人であるジュリア・グリューエンのサインが裏面に入っているだけとなります。グリューエンのサイン入りの版画も「本物」と見なされていますが、価格は多少下がってしまうかもしれません。


また、《Andy Mouse》シリーズの場合は、アンディ・ウォーホルとキース・ヘリングのサインの両方が入っています。この2人のサインは、版画の価値を非常に高めています。


最後に、近年の人気画家の版画作品のオークションにおける平均販売価格推移を見てみましょう。


最も価格相場が高いのはジャン=ミシェル・バスキアですが、若くして亡くなったために作品数が少なく、作品の質のばらつきがあるために価格が安定しません。


長期的に見ると、ウォーホル、ヘリング、バンクシー、そしてデイヴィッド・ホックニーの4人が右肩上がりの価格推移を見せています。


また、リキテンスタインとダミアン・ハーストは堅調な価格を維持しています。

人気アーティストの版画価格相場推移 © MyArtBroker 2024
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