ピカソの版画作品を売ったり買ったりする人のためのガイド
ピカソは美術史上最も影響力のある人物の一人です。
ピカソはその多作なキャリアを通じて、絵画、版画、陶芸など様々な媒体に取り組み、芸術表現の限界を押し広げ続けました。
ピカソの作品は、大規模なオークション・セールでは必ずと言っていいほど出品され、油彩作品には数百万ドルの値がつくこともしばしばです。
ピカソの版画作品もまた、版画オークションで大きな存在感を示し、数万から数十万ドルという高値で取引されています。
しかし、版画の価値は、そのシリーズ、状態、署名、認証によって大きく左右されるので、アート市場のトレンド、出所、認証について深く理解しておくことが重要です。
ピカソの名作版画《貧しき食事》
ピカソの版画家としてのキャリアは1900年代初頭に、絵画の仕事と並行して始められました。
ピカソの初期の版画シリーズ「サルティンクバンク連作」は、画商のアンブロワーズ・ヴォラールによって250部限定で刷られた14点の銅版画集です。
画商のアンブロワーズ・ヴォラールは、版画出版者としても有名で、ドガ、ボナール、ルオー、ピカソなどの画家による版画集や挿絵本を50点以上制作しました。
タイトルのサルティンバンクとは、旅回りのサーカス芸人のことで、ピカソのバラの時代の絵画で何度も描かれたテーマです。
「サルティンクバンク連作」は貧困、孤独、サーカスの演者の移り気な生活をテーマにしています。
なかでも《貧しき食事》はピカソの最も有名な版画の一つで、日本の国立西洋美術館も所蔵しています。
夕食の食卓につく飢えた男女を描いたこの版画の初版は、2022年にクリスティーズにて600万ポンド以上で落札されました。初版以外でもエディションナンバーが入っている場合は、数万ポンドで取引されています。

ピカソのエロチックな版画「ミノタウロス」
もうひとつの重要なシリーズは、やはり画商アンブロワーズ・ヴォラールによって1930年から1937年にかけて制作された全100点の版画集「ヴォラール連作」です。
この作品集は、愛と暴力、陰謀、神話、モデルと画家、過去の巨匠との対話などをテーマとしたもので、技法的にはアクアチントを試しています。この時期のピカソは新古典主義期と呼ばれ、版画家としても旺盛に制作に取り組みました。
箱根のポーラ美術館はこの「ヴォラール連作」100点をコレクションしていて、現在2025年5月18日まで、「新収蔵 ピカソ ヴォラール連作100」の展示を開催しています。
このシリーズに含まれている《アマゾネスを襲うミノタウロス》は、当時のピカソのミューズ、マリー=テレーズ・ウォルターがミノタウロスに犯されるシーンを描いた作品で、日本では徳島県立近代美術館に所蔵されています。

ピカソのリトグラフ(石版画)作品
1940年代になると、ピカソはパリでリトグラフをつくりはじめました。
当初は、当時の恋人フランソワーズ・ジローのカラー肖像画をリトグラフで制作しました。
1945年以降のピカソは、石版画家フェルナン・ムルロと共同で約400点のリトグラフを制作しました。
これらの作品の多くは、フランソワーズ・ジローや後に妻となるジャクリーヌ・ロックなど、ピカソの恋人たちの肖像画です。
ピカソはこれらの肖像画に、しばしばフィンガーペイントの技法を用いて独特の手仕事のタッチを加えました。
これらの版画の特徴は、鮮やかな色彩と大胆な模様にあります。

ピカソの版画作品を売買するには
売買にあたっては、作品が真作であることの確認が、その価値と正当性を保つためには不可欠です。
ピカソは版画作品を多数制作しており、技法も様々なため、確認には精査が必要です。そのため出版されたカタログ・レゾネ(総目録)をもとに作品の真贋を確認しています。
版画を取引する際は、作品の出所、専門家の評価が、作品の真贋と価値を決定する重要な基準となります。
