バンクシー版画作品の真贋認証
~ペスト・コントロールの役割と重要性

2025年5月29日に9ヶ月ぶりの新作をインスタグラムで発表したバンクシー。

今回の場所はフランスのマルセイユでした。道路脇のポールの影が灯台のかたちになっていて「I want to be what you saw in me(あなたが私の中に見てくれたものに私はなりたい)」と書かれています。マルセイユで亡くなった友人に宛てたメッセージだと言われています。

今回はバンクシーの版画作品の認証機関ペスト・コントロールについてお話しします。

バンクシーが「作品を購入するときはペストコントロール発行のCOA(Certificate of Authenticity)を確認すること」と注意をうながすほどの必須要件です。


バンクシー作品における認証の重要性


バンクシーの作品、特に比較的手に入りやすい版画(プリント作品)から高額なものまで、アートコレクターや投資家に高い人気があります。

その名声に便乗する形で、巧妙に作られた偽物が市場に出回っており、これは深刻な問題となっています。


偽物を購入してしまうリスクは単なる金銭的損失に留まりません。

まず最も直接的なダメージとして、偽物には資産としての価値が一切なく、将来的に売却しようとしても買い手が付くことはありません。

さらに、知らず知らずのうちに偽物の取引に関与することで、意図せず法的なトラブルに巻き込まれる可能性も否定できません。

また、大切にしているコレクションの中に偽物が紛れ込むことで、コレクション全体の価値を著しく損なうことにもなりかねません。

そして何よりも、偽物の流通はアーティストの創造性や権利を侵害する行為であり、バンクシー本人に対する冒涜とも言えるでしょう。


このような様々なリスクを避けるため、ペスト・コントロールによる認証が決定的な役割を担っています。

ペスト・コントロールが発行する「真贋証明書(COA)」こそが、作品が正真正銘バンクシーの手によるものであることを公式に証明する唯一の書類なのです。


バンクシー
BANKSY
Grannies
技法 シルクスクリーン


ペスト・コントロールとは

ペスト・コントロールは、バンクシー自身によって2008年に設立された、彼の作品の認証と販売を管理する世界で唯一の公式機関です。

その名前には、アート市場に蔓延する偽物や不正行為を「駆除する」という皮肉と決意が込められています。

ペスト・コントロールは多岐にわたる役割を担っています。その中心となるのは、バンクシーが制作したストリートアート以外の作品、すなわちキャンバス作品、版画、彫刻などの真贋を鑑定し、真正であると認められた場合に真贋証明書を発行することです。

さらに、認証された作品については、その所有者情報を記録・管理することで、作品の来歴の透明性を高め、追跡を可能にしています。

特筆すべきは、ペスト・コントロールは公共の壁に描かれたストリートアート作品の認証は一切行わないという点です。これはその場所に存在すること自体が真正性の証であり、売買の対象とすべきではないというバンクシーの確固たる哲学を反映しています。


バンクシー
BANKSY
Sale Ends(V.2)
技法 シルクスクリーン


ペスト・コントロール発行の真贋証明書

ペスト・コントロールが発行する真贋証明書(COA)には時代によって複数の種類があります。

2020年以前は、ダイアナ妃の顔が描かれた偽の10ポンド紙幣 “Di-faced Tenner “の半分が証明書にホッチキスで留められていました。もう半分は確認のためにペストコントロールが保管していたのです。 この2枚の切断面はぴったりとくっつきます。COA(Certificate of Authenticity)と印刷の真正性を確認するための、古風だが確実で迅速な方法でした。

2020年以降の証明書には、コーヒーカップのシミの中にネズミのイラストが描かれていたり、固有のシリアルナンバーが記載されていたりと、さらなるセキュリティ対策が施されています。 これらの新しい特徴により、偽造者による複製はますます困難になったといえるでしょう。 新しい証明書でも、 “Di-faced Tenner “の半分が添付されています。


真贋証明書を紛失または破損した場合は、ペスト・コントロールに連絡して再発行を申請できる可能性がありますが、追加手数料や確認作業が必要となることを理解しておく必要があります。

真贋証明書に関して注意すべき点として、証明書自体が偽造されるケースも報告されています。そのため証明書の有無だけでなく、作品の細かな特徴や入手経路の透明性も含めて総合的に判断することが重要です。また証明書に記載されている情報、特に作品名やエディションナンバーなどが実際の作品と完全に一致しているか必ず確認してください。

作品を売買する際には、ペスト・コントロールに所有者変更の届け出を行うことが強く推奨されます。これによりデータベースに最新の所有者情報が記録され、作品の来歴の透明性が維持されることにつながります。


バンクシー
BANKSY
Di-faced tenner (2)
技法 リトグラフ

偽物を見分けるための一般的な目安

ペスト・コントロールによる認証が最も確実な真贋判定方法ですが、購入を検討する初期段階でも注意を払うべきポイントがあります。

まず市場価格と比較して不自然に安い価格で販売されている場合は、偽物である可能性を疑うべきでしょう。バンクシー作品には確立された市場価格があるため、そこから大きく逸脱している場合は警戒が必要です。

次に販売者の信頼性も重要です。長年の実績がある著名なギャラリーや、信頼できるオークションハウス、評判の良いアートディーラーから購入することでリスクを減らせます。個人間の直接取引や出所の不明確なオンラインプラットフォームでの購入には特に慎重になるべきです。


作品自体の品質にも着目しましょう。インクが滲んでいたり、印刷にズレがあったり、紙の質が悪かったりするなど、全体的な仕上がりが粗い場合は偽物の可能性があります。本物のバンクシー版画は高品質な紙に専門的な印刷技術で制作されています。

さらに作品がどのような経緯で市場に出たのか、その入手経路が不透明である場合も慎重に判断すべきです。これらのチェックポイントはあくまで参考情報であり、最終的な真贋の確定はペスト・コントロールの専門的な鑑定に委ねるべきことを強調しておきます。


ちなみに、バンクシーの版画作品として全世界で広く流通しているWCP(West Country Prince、ウェスト・カントリー・プリンス)製品は、ペスト・コントロールの真贋証明書(COA)が付属しない複製品です。つまり、バンクシー公認の本物ではありません。

しかし複製品とはいえ、WCPのバンクシー版画はクオリティが高く、バンクシーから訴えられずに長年販売を続けているため、バンクシーと何らかの関係があるのではないかと推測されています。

なので、本物ではない複製品と理解したうえで、飾るために購入するのであればよいですが、値上がりはあまり期待できないでしょう。

翠波画廊ではペスト・コントロールの真贋証明書付きのバンクシー版画しか取り扱っていません。


バンクシー
BANKSY
DONUTS STRAWBERRY
技法 シルクスクリーン

バンクシー作品の購入および売却における認証の意義

バンクシー作品を購入する際、ペスト・コントロールの真贋証明書が付属していることは、その作品が疑いなく本物であるという最強の証拠となります。真贋証明書付きの作品は、そうでない作品と比べて格段に高い信頼性と市場価値を持ちます。


逆にバンクシー作品を売却しようとする場合、真贋証明書がなければ正当な価格で手放すことは極めて難しくなります。

多くのギャラリーやオークションハウスは証明書のない作品の取り扱いを拒否するか、著しく低い評価額しか提示しないでしょう。このように、バンクシー作品の取引市場においてペスト・コントロールによる認証は不可欠な要素となっています。


バンクシーの作品は芸術的価値のみならず投機的対象としても大きな注目を集めていますが、その華やかな世界の影には常に偽物のリスクが潜んでいます。

認証プロセスは時間と費用を要することもありますが、それは本物のバンクシー作品をその手にし、その価値を守り続けるために不可欠な投資なのです。

アートニュース一覧